言語はどうやって生まれたのか——この特集の最後から2番目のテーマは、言語学がもっとも扱いにくいと同時に、もっとも人を惹きつけてきた問いである。第21章でイェスペルセンは、まず過去の諸理論を一つずつ紹介し、手際よく退けていく。
名前のついた四つの説
ワンワン説(bow-wow theory)——原初の言葉は、動物の鳴き声の真似から生まれた、とする説。犬の鳴き声を真似て「犬」を意味する語ができた、という具合だ。
プープー説(pooh-pooh theory)——痛みや驚きなどの感情から出る間投詞(「あっ」「うわっ」)が言葉の起源だ、とする説。
チンドン説(ding-dong theory)——あらゆる物には固有の「響き」があり、その響きが自然に音として表現される、という神秘的な調和を出発点にする説。イェスペルセンはこの説の出所を、あっさりとこう明かす。
This theory, which Max Müller propounded and afterwards wisely abandoned, is mentioned here for the curiosity of the matter only. (この説は、マックス・ミュラーが唱え、のちに賢明にも撤回したものであり、ここでは興味深い話題としてのみ触れておく。)
このサイトのマックス・ミュラー特集で読んだとおり、ミュラーは「グリムの法則」の名づけ親であり、比較神話学の理論家でもあった。ここでもう一つ、彼が唱え、そして自ら手放した理論が姿を見せる。
ヨーヘーホー説(yo-he-ho theory)——共同作業の際、筋肉に力を込めるたびに漏れる掛け声が、その作業を指す語になった、とする説。
イェスペルセン自身の答え——恋の歌から
これらをひととおり退けたあと、イェスペルセンは自分なりの仮説を示す。手がかりは、求愛や共同生活のなかで自然に生まれる「歌」だという。たとえば、ある若者が恋人に向けて、いつも同じ節回しの掛け声——シェイクスピアの歌にある「ヘイ・ノニノー」のような——を口にしていたとする。仲間たちはそれを真似てからかい、やがてその節回し自体が、その若者を指す名前になっていく。ここから、固有名詞、そして一般名詞へと、言葉が枝分かれしていった、というのが彼の描く道筋だ。実証は難しいが、感情のこもった歌や掛け声を出発点に置くという点で、プープー説やヨーヘーホー説とゆるやかにつながる、彼独自の総合案になっている。
まとめ
| 説 | 主張 | 提唱者 |
|---|---|---|
| ワンワン説 | 動物の鳴き声の模倣が起源 | (複数) |
| プープー説 | 感情の間投詞が起源 | (複数) |
| チンドン説 | 音と意味の神秘的な調和 | マックス・ミュラー(のち撤回) |
| ヨーヘーホー説 | 共同作業の掛け声が起源 | ノワレ |
| イェスペルセン自身の案 | 求愛の歌・掛け声が名前に転じた | イェスペルセン |
一言でいえば——言語の起源をめぐる各説を退けながら、イェスペルセンはミュラー自身の理論の撤回さえも、資料の一つとして淡々と記録した。この特集で読んできた学者たちの仕事は、こうして互いに参照し合い、時に打ち消し合いながら、一つの学問を形づくってきた。