前の記事で見たとおり、グリム自身がすでに、自分の表にうまく収まらない実例に気づいていた。実はこの法則には、もっと目立つ例外が昔から知られていた。英語の father と brother——どちらも同じような立場にある単語なのに、なぜか子音の振る舞いが違う。この小さな不一致が、グリムの死からおよそ十年あまりのち、思いがけない場所から解き明かされることになる。
見た目にはよく似た二つの単語
グリムの法則によれば、印欧祖語の t はゲルマン語派で無声摩擦音 þ(th)になるはずだ。実際、brother の th はこの規則どおりの音である。ところが father の子音は、歴史的には無声の th ではなく、有声の d 系統の音(古い英語では ð)に由来する。同じ「t で始まる語根に接尾辞がつく」という、よく似た構造の単語なのに、なぜ片方だけ規則を破るのか——この問いに、グリム自身は答えを出せなかった。19世紀半ばの言語学者たちのあいだでも、これは「グリムの法則の例外」として、ある程度は仕方のないものとして扱われていた。
手がかりは、遠く離れたサンスクリット語のアクセント
1875年、デンマークの言語学者カール・ヴェルナー(1846–1896)が、この謎を解く論文を発表する。ヴェルナーが目をつけたのは、子音そのものではなく、もとの単語のどこにアクセント(強勢)があったかという、一見無関係に見える情報だった。サンスクリット語は、ラテン語や英語とは違い、古い文献にアクセントの位置を示す記号が残っている。ヴェルナーはこれを手がかりに、father に対応するサンスクリット語 pitā́r-(アクセントは後ろの音節)と、brother に対応する bhrā́tar-(アクセントは前の音節)を比べた。
アクセントが直前の音節になければ、無声摩擦音は有声音に変わる——これがヴェルナーの見つけた規則である。pitā́r- はアクセントが語根の直後になく、対応するゲルマン語の子音は有声化した(→ father の d 系統の音)。bhrā́tar- はアクセントが語根の直前にあり、子音は無声のまま保たれた(→ brother の th)。何百年ものあいだ、印欧祖語のアクセントは、ゲルマン語派では固定された位置(語頭)に移ってしまっていた。だから歴史時代の言語だけを見ていては、この条件はまったく見えない——サンスクリット語という、たまたまアクセント情報を残していた言語と比較して初めて、埋もれていた条件が浮かび上がったのである。
「例外のない法則」への一歩
ヴェルナーのこの発見は、単に一つの謎を解いただけではない。「例外」に見えたものは、実はもっと深い層にある、別の規則的な条件のあらわれだった——この考え方は、のちに「音韻法則には例外がない」(ただし例外に見えるものには、それ自体を説明する別の音韻法則が必ずある)という、比較言語学の基本原則そのものへと育っていく。この原則を掲げた19世紀末の学者たちは、みずからを「若手文法学派」(Junggrammatiker、ネオグラマリアン)と呼んだ。彼らがスローガンにした言葉を借りれば、「音韻法則は例外を許さない」——ヴェルナーの発見は、この立場が単なる願望ではなく、実際に検証できる方法だということを示した最初の、そしてもっとも有名な実例になった。この学派の仕事がグリムの遺産に何をもたらしたかは、この特集の次の記事で見ていく。
まとめ
| 論点 | 内容 |
|---|---|
| 例外の内容 | father の子音(有声)が、グリムの法則の予測(無声)と食い違う |
| 発見者 | カール・ヴェルナー(デンマーク、1875年) |
| 手がかり | サンスクリット語に残る、印欧祖語のアクセント位置の情報 |
| 解決の中身 | アクセントが直前の音節にないと、無声摩擦音が有声化する(ヴェルナーの法則) |
| 意義 | 「音韻法則には必ず説明できる条件がある」という原則の、最初の実例 |
一言でいえば——グリムの法則の「例外」は、法則が間違っていた証拠ではなく、もう一段深い規則がまだ見つかっていなかっただけだった。それを見つけたのは、子音そのものではなく、遠いサンスクリット語に残されたアクセント記号だった。