『言語学講義』第1シリーズ、第8講「言語の形態的分類」。ミュラーはここで、世界のすべての言語を三つの発展段階に並べてみせる。この分類は当時、広く受け入れられ、20世紀に入ってもなお言語学の教科書に残り続けた、影響力の大きい枠組みだった。原文を読みながら、その仕組みと、そこに埋め込まれた前提の両方を確認する。

三つの段階

ミュラーの分類は、語がどう組み立てられるかに着目する。

This second stage… I call the Terminational Stage. This stage is best represented by the Turanian family of speech… The third stage, in which roots coalesce so that neither the one nor the other retains its substantive independence, I call the Inflectional Stage. This stage is best represented by the Aryan and Semitic families. (……この第二の段階を、私は膠着段階と呼ぶ。この段階を最もよく代表するのがトゥラン語族である。……語根どうしが結びつき、どちらももとの独立性を保たなくなる第三の段階を、私は屈折段階と呼ぶ。この段階を最もよく代表するのが、アーリア語族とセム語族である。)

まとめると、こうなる——第一段階(孤立語・根源段階):一語=一語根で、語順だけで文法関係を示す。代表例は中国語。第二段階(膠着語・膠着段階):語根に接尾辞が貼りつくが、両者の境目はまだ見分けがつく。代表例は「トゥラン語族」。第三段階(屈折語・屈折段階):語根と語尾が融合し、もとの形が見えなくなる。代表例はアーリア語族とセム語族。三段階とも、語がどう組み立てられているかという、純粋に構造上の違いを述べているだけのようにも読める。だが、この講義の続きを読み進めると、話はそう単純ではないことがわかる。

第一段階:孤立語 代表例:中国語 語根=語、語順で示す 第二段階:膠着語 代表例:「トゥラン語族」 語根+接尾辞(境目が見える) 第三段階:屈折語 代表例:アーリア語族・セム語族 語根と語尾が融合 ミュラーはこの並びを「発展の三段階」として提示した——この前提には注意が必要(詳しくは後の記事で)
ミュラーの言語三段階分類。図:ToL

「トゥラン語族」という、巨大な受け皿

第二段階の代表とされる「トゥラン語族」に、ミュラーは何を含めていたのか。彼の説明はこうだ。

The name Turanian is used in opposition to Aryan, and is applied to the nomadic races of Asia as opposed to the agricultural or Aryan races. (トゥランという名前はアーリアと対になる形で使われ、農耕民であるアーリア人種に対する、アジアの遊牧民族を指すのに用いられる。)

ここで注目したいのは、「語族」の説明のなかに、いつのまにか「人種」(races) という言葉が滑り込んでいる点だ。「語族」と「人種」を並べて語るこの言い回しは、あとで見るとおり偶然の言葉づかいではない。ミュラーの「トゥラン語族」は、実際にはウラル語族(フィン語・ハンガリー語など)、テュルク諸語、モンゴル語族、ツングース諸語、さらにはタミル語やタイ語、マレー・ポリネシア諸語まで、系統関係が実証されていない言語群を丸ごと一つの「語族」としてまとめた、巨大な受け皿だった。現在の言語学では、これらのあいだに単一の共通祖先を認める根拠はないとされ、「トゥラン語族」という分類そのものが放棄されている。

分類の背後にある前提

この第8講の分類には、もう一つ見逃せない点がある。ミュラーは三つの段階を、たんに「違う仕組み」としてではなく、孤立語から屈折語へ向かう発展の順序として提示している。屈折語であるアーリア語族とセム語族が「最も進んだ」段階に置かれ、中国語のような孤立語は、いわば出発点に据えられる。この言語の型に優劣の序列をつける発想は、当時の進化論的な世界観と結びつきながら広く受け入れられたが、現代の言語学ではまったく支持されていない——孤立語・膠着語・屈折語は、それぞれ独立した仕組みであって、どちらが「進んでいる」かを比べられるものではない、というのが今日の理解である。現代中国語は今も孤立語的な性格を色濃く残しているが、それによって英語やサンスクリット語より「未発達」だと考える言語学者は、現在ではまずいない。型の違いは、進化の段階差ではなく、単なる仕組みの違いにすぎない。

注意しておきたいのは、この形態的分類(孤立語・膠着語・屈折語)は、語族という系統的な分類(アーリア語族・セム語族・トゥラン語族など)とは、本来別の軸だという点だ。語の組み立て方が似ているからといって、共通の祖先を持つとは限らない。ミュラー自身もこの違いをある程度は意識していたが、両方の分類に「アーリア」という同じ名前を使い、しかもそれを進歩の頂点に置いたことで、二つの軸は読者の頭のなかで簡単に混ざり合ってしまう。この分類がなぜ問題なのか、そして「アーリア」という語がどう独り歩きしていったかは、この特集の後の記事で正面から扱う。

まとめ

段階代表例仕組み
第一段階:孤立語中国語語根がそのまま語になる。語順で文法関係を示す
第二段階:膠着語「トゥラン語族」(現在は放棄された分類)語根に接尾辞が貼りつくが、境目は残る
第三段階:屈折語アーリア語族・セム語族語根と語尾が融合し、もとの形が見えなくなる

一言でいえば——ミュラーの三段階分類は、言語の組み立て方の違いを整理する仕組みとして、当時としては画期的だった。だがその整理は、いつのまにか「語族」の話に「人種」の話を持ち込み、言語の型に優劣の序列をつける発想と結びついていた。分類そのものの精緻さと、そこに紛れ込んだ前提の危うさは、まったく別の話として、切り分けて評価する必要がある。この特集は、その両方を避けずに読み進める。